プロデザイン ロゴ
1986-2000 2000-

  プロデザインストーリー

 1986年、プロデザインはオーストリアのインスブルックで2人の男によって創設された。この世界にいち早くコンピューターキャドの導入を行い、一貫したポリシーで設計を続けるアーミン・グラフとテストフライトとマーケティングを担当するホフバウワー・ハーバートがその2人だ。
それまではハンググライダーの販売代理店をする傍ら、ハーネスの制作やヨットのセールのデザインなどで、販売と製造に関しては十分な経験を積んでいた。ご存知の通り、過去にもオーストラリア・アルプスが高高とそびえるチロル地方は数々のスカイスポーツの大会が開かれており、彼らがこの仕事に就いたのはごく自然の成り行きと言えよう。

 プロデザインのグライダーは、一つのモデルのライフスパン(マーケットに受け入れられ現役でフライトしている期間)が長く、常に数年後の需要を考慮したマーケティングの基に設計が行われます。設計に関しては、安全性を最優先に考え性能とのバランスに最も努力を注いでいます。完成したプロト機は膨大な日数のテストフライトを通じ、高性能に安全性の裏付けがなされた仕上がりを目指します。また長年に渡りクオリティーと性能を維持するため(ラインコンセプトを参照)、生産行程では一切の妥協無く生産管理・チェックが行なわれています。そのため他社のパラグライダーと比較すると、制作に要する時間や費用も多くなってしまいます。

 また、パラグライダーの素材に対しても、独特の考え方を持っています。例えば素材を供給する会社の資料だけに頼らず、独自のテストや研究から独自の許容データやスペックを作成し、その基準に見合わなければ、メーカーに対して素材自体を造り直させるのです。こうして生まれたのが98年モデルから随時採用を始めたPSTダイニーマ(弱点の伸びを克服した新世代のダイニーマ)です。

 プロデザインは、それらの時間や非常に手間のかかる作業に敢えてチャレンジすることで、彼らの思想や理念を貫こうとしている会社です。なぜなら、高価なパラグライダーの安全性や、あらゆる性能の低下を最小限に抑えることが、最終的にユーザーの利益につながるとプロデザインは考えているのです。
パラワールド03年掲載

 プロデザインは本当に伝統のある会社だ。1995年の北九州大会でステファン・スティ
グラーによって世界チャンピオン機になるなどコンペでも実績があり、しかも機体販
売では素晴らしい業績を上げている。競争メーカーの数が倍増したため、「コンパク
ト」や「チャレンジャー」の大成功で売上が好調だった93年〜95年に比べ、確かに販
売数は減少した。
 しかし、市場の大きな変動にもびくともせず、独自の正攻法を貫き、着実に自分た
ちの伝統を守っている希有なメーカーである。
 プロデザインの最大の特徴は、洗練され、耐久性に優れた高品質のグライダーであ
るということ。浮き沈みの激しいこの業界で、この製造ポリシーを貫いていることは
尊敬に値する。
 アーミン・グラフは業界でも目立った存在ではないが、創造性豊かなデザイナーと
して比類なき才能を持っている。翼のテイルに付けたテンションバンド「スパンテー
プ(Spann-tape)」は、94年以来、同社の伝統的特徴となった素晴らしいアイデアだ。
エアインテーク下側に取り付けるメッシュや、翼の振動を防ぐ目的で、エアインテー
クの下に「プロフィール」を持たせるために付けた小さなエアポケット「ラムエ
ア(Ram-air)」は、彼のアイデアだ。
 最初にダイアゴナルリブのパラグライダーを開発(*1)したのも、おそらく彼なの
だ。そして96年には、パラグライダーで初めて滑空比10を超えるプロト(*2)を設計
している。
 プロデザインのマネージャーであるヘルベルト・ホフバウアーとアーミン・グラフ
は旧友だ。同じインスブルック地方のエンジニアだった2人は、ハングパイロット仲
間でもあった(ヘルベルトがハングを始めたのは75年と実に早い)。
 1986年、2人がハングの製造会社を立ち上げようとしたまさにその時、フランスで
パラのスクールがブレークし始めていた。彼らの友人の1人が、休暇でフランスに行っ
たとき、エルドカ製の「ランドヌーズ・マックス」を買って帰った。ヘルベルト自身
は、スカイダイビング用スクエアパラシュートで、山の斜面を走って飛び出すことを
既にやっていた。彼はこの友人の「ランドヌーズ・マックス」を試した。そして2人
は、ハングの代わりにパラのメーカーになろうと決めたのだ。
 ハングの製造よりも投資が少なくてすむし、それにパラの方が将来性があると思っ
たからだ。UPとファイヤーバードのように、プロデザイン誕生以前に、すでにハング
の製造をしていた会社は幾つかあったが、パラを手掛けるようになったのは彼らより
も後だ。
 ITVでさえも、パラメーカーとしてはプロデザインよりも少し遅れてスタートして
いる。プロデザインは、現在も健在なパラメーカーとして最古参だ。アーミンが機体
の設計、ヘルベルトが事業の運営と、2人の共同関係は、86年の創設以来変わらない。
プロデザインの特徴をもう1つ挙げるとしたら、「安定」しているという事だろう。


 同社の第1号機は「コンビカット」と名付けられた。「カット」の由来について、
動きが大きくなり過ぎる翼端を切断(Cut)したから、と言うのが大方の見方だ。が、
事実は違う。このモデルは、翼下面は伝統的な作り方だが、「翼上面はお互い直角に
カット(Cut)し合う3枚のパネルから構成されていた」と言うのが、大きい理由だ。
 当時はまだまだ「本格的な」パラグライダーが少なかった。エルドカの7連の「ラ
ンドヌーズ・ファン」と、9連の「ランドヌーズ・マックス」ぐらいしかなかったの
だ。
 そんな中、11連の違ったプロフィール(翼形)を持つ「コンビ・カット」は、際立っ
て現代的だった。香港の工場で製造したこのモデルは、600機以上販売された。そし
て、彼らはインスブルックにショップをオープンする。
 「非常に幸先よかったよ!何しろ僕らはオーストリアで最初のパラメーカーだった。
そして、この新しいスカイスポーツに、大きな注目が集まり始めた頃だった。試した
いと思っている人や、興味を持っている人がたくさんいた。雑誌やテレビが取材に来
たよ。僕らは瞬く間に有名人になった!」「この頃はまた、世界中にビジネスネット
ワークを広げ始めたときでもある。その中には、今も変わらず忠誠心を示してくれる
ディーラーが幾つかある。いい時代だった...僕らは自分たちの趣味を職業にできた
のだからね」
 グライダー「サーミック」は、最初の世界選手権となった87年のベルビエ大会で、
デビューしたコンペ機だ。それに続く一般モデルが、88年にリリースされた「ケスト
レル」だ。著しく向上した飛行性能と、大きな垂直スタビライザーを特徴とした翼は、
エルドカの「ジェネー」とよく比較された。しかし、クローズドエアインテークと内
部バルブを持つ「ジェネー」の初期バージョンは、危険なモデルでもあった。反対に、
「ケストレル」は好評だった。このモデルはプロデザインにとって、2度目の成功と
なった。その後リリースされたモデルも次々と成功する。「コラード」「チャレンジ
ャー・クラシック」「チャレンジャー・・コンペ」「コンパクト」等。これで現在の
プロデザインのイメージが確立した。
 非常に真摯で、革新的で、洗練され、耐久性に優れ、使用年数による劣化の少ない
機体。人気は、95年の世界選手権の優勝で頂点に達した。しかし、倍増するパラメー
カーの数によって、市場は圧縮され、どのメーカーにとってもビジネスは厳しくなる。
同社も例外ではなかった。「コンテスト」「プロフィール」「イオレ」、そして非常
に精巧に作られた「マックス」も、当初から変わらない職人魂で作られた名機だった
が、以前のような大きな成功は得られなかった。さらに、この時期、ノバやアドバン
ス、フリークス、スイングなど強力なライバルが誕生し、彼らの独壇場であったオー
ストリア・ドイツ市場に次々と参入して来たのだ。しかし、独自の路線を保持するこ
とで、他の幾つかのメーカーが窮地に陥っているときも、着実に優れたモデルを世に
送り続け、市場での地位を確立した。
 「リラックス」「ターゲット」、そして大ヒットした「イフェクト」。プロデザイ
ンは、忠誠心の高いユーザー層や、インポーターを獲得することに成功した。彼らは、
プロデザインがニューモデル開発に長期間かける慎重さを理解した。そして技術的細
部や構造強度に関する、職人的こだわりにも理解を示した。アーミン・グラフとヘル
ベルトの賢明なやり方に共感する人たちは世界中に多い。
 
■ 
 現在、インスブルックから数キロ離れたオフィスには、彼ら2人の他に、5、6人の
人たちが働いている。スチュバイ谷の中心からそれほど遠くない場所だ。機体とハー
ネスの製造は、イスラエルか中国で行われている。開発パイロットには数年前から、
PWCでも有名なアーミン・エデルがおり、最近では、元コンペティターで、チレタル
でスクールディレクターやタンデムパイロットをやっていたユルゲン・ストックも加
わった。
 テストパイロットが開発中のプロトを試験飛行している間も、プロデザイン社は他
の事業も平行して進めている。その多様さには驚くばかりだ!海洋スポーツ用の特製
セイル(帆)、カイト(Dolphinシリーズ)の開発と修理、パラトライク用キャ
ノピーSycon-Aircraft、等々。この他にも、2人は個人的なプロジェクトを展開して
いる。
 ヘルベルトは、カウンタープロペラ)付きギアボックスを装備したユニークな
トライク「エア・チョッパーAir-chopper 」(Sun-Flightcraftが発売)の開発。アー
ミンは、3D映像の製作では天才的才能を持っているに違いない。彼は3Dグラフィック
スの才能を、建築設計やヘリコプター救助用コクーン等の救助装備の設計に発揮して
いる。
 プロデザインには他にも機密プロジェクトに携わっている人が数人いる。当然、取
材や写真撮影は許されなかったが、オーストリアスキージャンプチームのジャンプスー
ツらしい。
 今年の始めにオーストリアジャンプチームの若手が好成績を出したのは、もしかし
たらプロデザインのおかげかもしれない!




Interview
●プロデザインディレクター ヘルベルト・ホフバウワー

世界のパラ市場をどう見てますか?
 残念ながら、ヒステリックな状態だ!ニューモデルをリリースする度に、常に新し
いアイデアを実現させなければならないと、誰もが強迫観念に捉えられているようだ。
我社は?と言えば、決してニューモデルの開発が早いとは言えない。我々は今でも開
発に十分時間をかけたいと思っている。「ジャズ」は研究に長時間かけた。すべての
サイズで機体認証を取得した今でも、実際に市場にリリースする前にもう少し時間を
かけたいと思っている。しかし、市場全体に見られる性急さから、そう長く市場を待
たせることは不可能だろう。
 こんな例もある。私は正直、ユーザーに「今がイフェクトの買い時だ」と言いたい。
何故なら、よく飛ぶし、それにリリースして3年経った今、特に欠陥のないモデルだ
と誰もが知っているからだ。しかし、いくら多くのディーラーが、今でもモデルチェ
ンジしないでくれと嘆願してきても、市場が我々にニューモデルの発表を要求するの
だ。理由は、単に3年も経ったモデルはもはや「時代遅れ」だからだ。ここ数年間、
このカテゴリーで特に目立った技術改良はなされていないにも拘わらず...。
 つぎのモデルチェンジの準備は完了しているよ。でもテストはもっと続けたい。完
全にOKと思ったら、販売するよ。
 最後の例として、特にスクール機として高い評価を受けていて、今もかなりの数が
飛んでいる「コンパクトの話をしたい。今でも、年間100機ほどの機体が、点検のた
めに戻ってくる。客観的に見ても、「コンパクト」は今も初心者パイロット用として
は、ベストモデルだと思っている。理由は簡単だ。十分乗り尽くされた機体で始める
方が、ベストだからだ。しかし現実の話、誰が94年にリリースされたモデルを買いた
いと思うだろう?

他のメーカーのように、モデル数をもっと増やそうと言う誘惑に駆られたことは1度
もないですか?
 僕らは、年間に発表するモデル数は2つが限界だ。それ以上になると、完璧に仕上
げることが不可能だと思うからね。意味のないモデルチェンジを見かけることがよく
ある。ニューモデルと言うためにエアインテークの形を変更することなど、我々には
興味のないことだ。実際に何か新しいものを提供できないとしたら、ユーザーに申し
わけがない。だから開発には、自分たちのペースを守るようにしている。少しでも良
い仕事をしたいから、少し長く時間をかける方を選ぶのだ。

長い間、プロデザインの機体は、高い強度と細部にこだわった構造で評判でした
が...
 スタート当時は参考となるものがなかった(コンビカットは業界第2号のパラグラ
イダー)。それでスカイダイビング用パラシュートのメーカーが、どのように製造し
ているかを研究した。同じように「可能な限り高い強度」の機体を作りたかったから
だ。後になって、この選択が正しかったことに気づいたよ。例えばサスペンションラ
インは、現在でもDHV基準を上回る強度を持っている。
最悪の事態で、例えば、数本
のサスペンションラインだけに全負荷のかかる、潰れからの回復の瞬間では、基準よ
りも高い強度を持っていた方が安心だからね。

自分たちの機体が、余りに「精巧」過ぎると感じたことはないですか?
 初めから細部の精巧さにこだわってきた。90年リリースの「コラード」の下面に付
けたメッシュは、その初期の例だ。「マックス」は確かに複雑になり過ぎた。多数の
セル、至るところ補強材が使われ、そして実際には必要でない多くの細部工夫がなさ
れた。今はもっとシンプルなグライダー作りに戻った。「イフェクト」や、特に最新
モデルの「ジャズ」に、それが顕著に見られる。今では、シンプルさと軽量さがパラ
グライダーの将来だと信じている。
 だかたといって以前のモデルについて後悔しているわけではない。我々は十分に調
査し、いろいろな事を学んだ。進化の道は決して真っ直ぐじゃない。「スパンテープ」
や「ラムエア」をはじめとした工夫を、今でも誇りに思っているよ。

発明したものに、特許申請しようとしたことはないですか?
 パラ製造に関しての特許アイテムは多いよ。しかし誰も特許なんか気にかけていな
いよ。いつでも無視できる。我々も3つの特許を取得した。「ケストレル」のスタビ
ライザー、「コラード」のメッシュ、そして今ではどのメーカーもやっていることだ
が、レスキューパラシュートのライザーを肩から伸ばすパテントだ。しかし特許取得
した後で、弁護士との戦いに長い時間を費やすことになった。誰もが「その前に私が
やっていた!」と主張するのだ。このレスキューパラシュートの件では、DHVが特許
を取り下げるように頼んで来た。特許は業界全体の安全に反すると言うのが、彼らの
言い分だったよ。

このビジネスを始めて、後悔したことはありますか?
 幸い、今もフライトし、人々に出会い、そしてときどき旅行することができる。こ
のスカイスポーツとそれに関わる活動に、今も情熱を持っているよ。しかし会社の運
営となると大きなストレスだね。仕事もクレージーなほどハードだ。
 例えば、この1月中でも、ぼくは自分のメールボックスに493通のメッセージを受信
した。そして合計519通の返信と送信をした。夜、返事を書くことが、何日も続いた。
たいていは、ただの「おしゃべり」だったり、直接利益にはつながらない「コンタク
ト」だったりする。しかし返事を書き、全員を個人的に扱うことは大切なことだと思っ
ている。ディーラーに関して言えば、彼らが抱えている問題は、市場から受けるビジ
ネス上のプレッシャーだ。問題の大部分が、価格に関している。価格を維持すること
が難しいのだ。幸いにも、忠誠心の高いプロのディーラーもいる。スウェーデン
やUSAのディーラー、そして日本の中台氏だ。そして、我々の哲学を理解し、話をす
るためにあるいは一緒にフライトするために訪ねてくれる人たちもいる。彼らはたい
ていこう言ってくれるよ。「今までのやり方を変えないでくれ」とね。
 しかしそれ以外は、長い付き合いをすることは難しい。市場には余りに多くのモデ
ルが溢れ、余りに多くのメーカーが存在し、そして価格競争が激しいからだ。
 そうそう、後悔することは何もないよ。


注釈
(*1)ダイアゴナルセル
 スカイダイビング用パラシュートにおいても、既に存在していた。パラでダイアゴ
ナルセルを成功させた最初の例は、ノバの「ゼノン」だ(デザイナーのハーネス・パ
ペッシュはファルホークの幾つかのコンペプロトでも、すでに使われていたと言って
いる)。
 ITVは初期モデルの「アステリオン」で、すでにテストされたことがあると言って
いるし、プロデザインも86年末に出したプロト機(写真参照)に応用していた。誰も
が、自分たちが最初に試したと思っている。
 注目すべきは、この初期のプロトに適用されたセル原理が、後にノバによって成功
したゼノン、イクシオン、ヴェルテックス、エキスパート、アルゴン、カーボンのも
のと同じだと言うことだ。

(*2)滑空比10のプロト
 96年に製作されたHigh Monsterプロト。前年度の世界選手権で優勝したコンペ機
「High 68」をベースにし、それよりも翼面積を広くしアスペクト比を大きくした
ものだ。滑空比10の壁を破るために作られた。そして法律官立会いの中、静止状態の
大気の中で飛行測定が行われ、滑空比10を記録したのだ。
95年世界選手権の優勝機High 68のスペック :翼面積(30.1?)、スパン(13.82m)、
アスペクト比(6.35)、セル数(68)。
滑空比10グライダーHigh Monster Protoのスペック :翼面積(36.31?)、スパン
(16.27m)、アスペクト比(7.29)。

(*3)パラトライク用キャノピー「Sycon-Aircraft」
 2種類の基本モデルがある。長方形翼の「クルーザー」と楕円形翼の「チロン」。
これらは米国市場用に作られ、他の国でも別名で販売された。例えば、フランスのラ
ムエッティ社からは「Helix」の名前で販売されている。同社の話では、楕円形翼の
方が滑空性能に優れ、ガソリン消費が20%も少ないが、飛行中にエンジン回転を下げ
るとすぐに沈下率が大きくなると言う。滑空性能が優れているだけ操作方法もデリケー
トになるが、心配するほどの程度ではないらしい。

(*4)トライク「Air-chopper」
4枚のカウンタープロペラ付きギアボックスCoax-Pを装備したトライク。

(*5)オーストリアジャンプチームのスキージャンプスーツ
スキージャンプ用のスーツには厳重な制限がある...。しかしデザイナーがその基準
の限界ぎりぎりまで、スーツの空力性能をアップさせれば、選手たちの滑空距離を伸
ばすのに貢献するだろう。例えば、各選手の体型に合わせて、身体の各ポイントで肌
とスーツ間の距離に変化を持たせて、滑空に適したプロフィールに仕上げるのだ。



キャプション
スパンテープ(Spann-tape)
1994年にPro-Designが発明したメソッドで、最初に使われた機体はHigh 68だ。現在
ではどのメーカーも似たような方式を使っている。このテープは、翼にテンションを
持たせて、翼が振動しないようにするためのものだ。通常は、この振動を防ぐために
テイルのスパンを長くするのだが、ブレークコードを引くことによってこのテイルの
スパンは無くなる。その結果、グライダーは再び振動し始める。乱気流の中でブレー
クコードを引く操作をするときは、実にありがたくないことだ。スパンテープは、や
やフロントよりに位置しているので、パイロットがブレークを引いてもその影響を無
視することが出来る。

エアインテイク下側のメッシュ(Mesh)
CorradoやChallengerなど、幾つかのモデルで採用された。滑空性能にはマイナス要
因のキャノピィ生地の振動を抑制するのに有効。このキャノピィクロスの振動は、高
速グライダーには共通の問題だった。

ラムエアー(Ram-Air)
後のPro-Feel(1996年)で、更に洗練された。キャノピィ生地で作られた小さな「ポ
ケット」状のシステム。空気を取り入れて膨らみ、小さなプロフィールを形成してキャ
ノピィの振動を防いだ。

Jazzの翼
Pro-Designは常に構造強度を大切にしている。Pro-Designがよりシンプルな機体作り
に方向変更して作った最新の中級モデルJazzでは、外側の縫製は強く修理し易くなっ
ている。Vリブは中間セルだけに使用、翼上面は軽量で防水性のあるNCV Porcher
Marine製生地(9017 E77A)を使い、下面はレギュラータイプ(9017 E38A)。すべ
て40gの軽量生地で、機体を軽量化させている。Mサイズで5.2kg。サスペンションラ
インは1986年から変わらずドイツEdelrid製。

アーミン・・グラフのグライダー群
プロデザイン社フォトライブラリー

デザイナーの神髄に触れたい!
【一問一答】

 私こと、ミッシェル・フェレは、パラデザイナーとして現在も活躍していて、最も
長いキャリアを持っている人は、元ITVデザイナーで現在はエアロダインのデザイナー
のミッシェル・ルブラン、アドバンスのロバート・グラハム、ナビュー(ITV)のグザ
ビエ・デュムリだと思っていたが、これは間違いだった。
 なんと、アーミン・グラフを忘れていた!
 彼は非常に控え目で、典型的な技術者タイプに見える。彼と会った時、最初に受け
た印象は、ノバのハーネス・パペッシュと似ていた。同じ年齢で、同じインスブルッ
ク近郊に住み、同じように理工系出身だ。更に、2人ともパラのパイロットになる前
は、アマチュアのヨットセーラーで、アーミン・グラフは「Flying Dutchman」のナ
ショナルチャンピオンだったこともある。もう1つ2人に共通なことがある。2人とも
余り人前に出たがらないことだ。それでもハーネス・パペッシュはときどきイベント
に顔を出すことがあるが、アーミン・グラフを見かけたことは1度もない!
 余り外に向けてはしゃべらないが、頭の中にはたくさんの知識やアイデアが入って
いるのだ。それに当初は、自分たちのやっている複雑な仕事を他人に説明することは、
難しかったに違いない。彼らはインタビューを受けるプロではないのだ!
 しかし、話すうちにリラックスすると、自分たちの仕事を喜んで親切に話してくれ
た。
 彼らのように非常に優秀な技術者には、本当に控え目な人たちが多い!

ー最初に基本的な質問から始めさせてください。どんな手順で仕事をするのですか?
 基本的には、どのデザイナーでも同じだと思うが、小さな改良から始めるよ。プロ
ト機で反応を見ながら、シリアル機に反映させていく。私自身は、すでに良く知られ
た小さなアイデアをたくさん使っている。これらのアイデアは、正確に組み合わせる
と、グライダーがますます良く飛ぶようになるんだ。

ー飛行性能はどのように向上させるのですか?
 やはり、これらの小さなアイデアのすべてを、最適に利用することによってだね。
個人的には、過去にいろいろなことをテストした。たくさんの経験をして来たよ!
 例えば、膨張チューブとかファイバーグラスとかね...。そしてよく思うことは、
「よく飛ぶグライダーはシンプルに作られている」と言う事実だ。完璧さは、おそら
くシンプルさから来るのかもしれない!今では誰も真新しいことはしていない。それ
は自動車メーカーにも言えるだろう。完全に違うことなど何も起こっていないのに、
グライダーは20年前よりもずっと良く飛ぶようになった。それは多くの小さな改善の
積み重ねのおかげだ。革新的なことなど何もないよ..。

ースパンテープやラムエアーの生みの親はあなたでは?
 そのとおり私だ。それまでに似たようなものを見たことがないからね!(笑)

ー最新モデルの「ジャズ」は非常にシンプルな作りだが、「タイタン」は非常に複雑
に作られているように見えますが…
 どちらも作れるよ!という証拠だ!真面目な話、これは市場からの要求だよ。ユー
ザーが望んでいるのさ。我々は、ユーザーが何を欲しているのかを常に観察している。
「タイタン」のようなカテゴリーでは、このように精巧な構造が必要となるのだ。た
とえ多くの材料が必要となり、開発に手間がかかるとしてもね。例えばクローズドセ
ルだが、幾つかのマイナス結果を生む可能性があるため、開発にはそのマイナス要因
を減らすために苦労した。向い風飛行では、「タイタン」は他のグライダーより優れ
た飛行性能を見せる。しかし普通のフライトで、平均的なパイロットが使う分には、
「ジャズ」の方がサーマルで確実に上を飛んでいるよ。理由は単純に操作しやすいか
らだ。
 正直言って、グライダーの性能が、そのパイロットのフライトの限界と関係がある
とは思わない。限界があるとすれば、それはグライダーを操縦するパイロットの能力
のせいだよ。例えば、サーマルを外さない能力とかね。残念なのは、多くのパイロッ
トがカテゴリーやイメージで機体を買っていることだ。
 たいていの場合、彼らはその機体の持つ飛行性能を十分に引き出すことができない。
彼らが機体のパフォーマンスについてあれこれ話すとしても、実際はそれが自分たち
の望むことではないはずだ。パイロットの大部分は、穏やかに飛行して、空中でリラッ
クスした時間を楽しみたいだけなのだ。開発段階で、研究する対象が、滑空性能より
も耐久性や素直な操作性に集中するのはこのためだよ。滑空性能の向上は、機体の全
体的な進化によって自然についてくるものだからね。

ー耐久性についてですが、プロデザインの機体は経時劣化が少ないとの評判です
が...
 何も特別な秘密なんてないよ。経時変化の小さい良質の素材を使っているだけだよ。
技術的には、調整の幅に許容性のあるプロフィール(翼形)を適用している(この点
については、グザビエ・デュムリも同じことを言っていた)。
 翼の変形をコントロールし易くするため、バランスの取れた荷重配分も大切だ...
例えば、「リラックス」や「ターゲット」では、キャノピー生地が軟らかくなっても、
バランスの取れた荷重配分とプロフィールの統合性が失われないように、かなり肉厚
の「丸みのあるノーズ」のプロフィールを選んだ(A)。
 総体的に、滑空角度が変化しても、滑空性能の均質性が保てるプロフィールを選ん
でいるよ。滑空角度の変化によってプロフィールの性能が余りに変化するようであれ
ば(B)、翼の飛行動作も変わり、有効な操作範囲をキープすることが困難になるか
らね。

ー大部分のモデルが、どちらかと言えば、翼端の面積が大きい長方形翼ですね。
 理論的には、翼端で誘導抗力の小さい楕円形翼が好ましいよ。しかし我々が(訳者:
翼断面を翼幅方向に沿って)キャンバーを複数の個所で見た場合、結局、矢形かダイ
アモンド形(C)の長方形翼に行き着くんだよ。アスペクト比を大きくしたときも、
翼端に十分な面積を確保するために長方形翼を選んだ。翼端を余り細くすると、ブレー
クコードを引いた時に翼端の面積が小さくなり過ぎて、翼端の揚力が失われ(訳者:
翼端失速)、翼が変形し、他の異常を引き起こす危険性がある。 しかし、最新モデ
ルの「ジャズ」では、従来の方法とは違ったコンセプトを用いた。他のモデルと較べ
て楕円形翼で、アスペクト比も5.1と比較的抑えている。翼端も「イフェックト」よ
り細い。これはカテゴリーの特徴に合わせたものだ。つまり「反応の良い」操作性で、
もっと「飛んで楽しい」中級モデルを目指した結果なのだ。すべて選択の問題だよ。

ー機体認証についてどう思いますか?
 認証機関は、機体を「極端」な飛行状況でテストしている。毎秒12m以上のスピー
ドでのスパイラルダイブなどね...。普通は、誰もそんなハイスピードでグライダー
をダイブさせないよ。しかし我々は、ほとんど起こりそうもない可能性についても、
考慮する必要がある。誰かが偶然、このような状況に陥ったときのことを想定してね。
おそらくこの状態では、遠心力が大きくなり過ぎて、パイロットは自分でスパラルを
止めることが出来ないだろう。スパイラルが自動的に止まるように、我々が翼端部に
理想的なキャンバー見つけようと努力しているのはこのためだ。
 しかし同時に、飛んで楽しい高い操作性も必要だ。つぶれた後、安定飛行に戻りや
すいとかね。そのためには、最適な妥協点を見つけなければならない。機体認証機関
も、我々のテストパイロットも、デザイナーも、仕事の大部分はユーザーパイロット
が犯すかもしれないエラーを防止することだ。このような「防止対策」は当たり前の
ことだ。しかし残念ながら、すべてのことをテストすることは絶対不可能だ。本当の
試験官は、時間と実際の使用だよ。だから、我々は心底からOKと納得できて初めて、
ニューモデルを市場にリリースするのだ。それでも毎回、もっと時間が欲しいと思わ
ざるを得ない。
 事故もほとんどなく、使用年数が増えても飛行性能に大きな変化がなく、ユーザー
がハッピーだということが分かったとき、初めて我々は選択が正しかったと知ること
ができる。しかしそれを知るには、何度も訊ねなければならない。
 機体認証テストを受ける度に、例外なく、私は認証と現実のフライトとは無関係だ
と気づかされる。例えば我社のスクール用モデルを見てみると、「クラシック」
(1993年モデル)はDHV 2-3で、「コンパクト」はDHV 2、「イフェクト」はDHV 1だ。
しかしトータルな状況から判断して、1番簡単なグライダーは「クラシック」なのだ。
たとえ認証の飛行テストマヌーバーで、DHV 2-3と判断されてもね。
 その理由は、「クラシック」が長いミドルコード(訳者:翼幅方向中央で断面した
ときのコード長)を持っているからだ。ミドルコードが長いと、ブレークコードの操
作が大きくても小さくても、ピッチ角度にそれほど影響されず、翼が安定しているか
らだ。現在、すべてのモデルがより高アスペクト比で、翼が細くなっている。そして
以前のモデルと比べて、ブレークコードを引いた時、コード長が非常に短くなる。私
の意見では、たとえ認証テストにうまく合格できるようになったとしても、以前より
も機体の安全性が高まったとは言えないと思うんだ。理由は簡単だ。形状が薄くなっ
た新世代のグライダーでは、ブレークコードの操作による翼の反応が敏感になるから
だ。

ー最後の質問ですが、どんなコンピュータープログラムを使ってますか?
 エアフォイルセクションや空気圧等を計算できるプログラムを持っている。自分で
作ったのだ。比較的クラシカルなフォーマット(D)だけどね。それからEurocopter
(世界的なヘリコプターメーカー)のプログラムも持っている。これは数字だけで、
イラストに変換できない。これを使う機会はあるね。何故なら、アメリカズカップ
(訳者:世界最高のヨットレース)のために、ドイツチームから航海用としてテスト
するように注文があったからね。これは空気中を移動するすべての物体を計算するも
のだヨ。